既存エンタメ・メディアの先入観に囚われず、音声メディアの可能性や課題に関し、スマートかつビビットな視点で言及・選考ができる感性を持つ方に、選考委員をお願いしています。
  • 上田 慎一郎  
    映画監督
    1984年、滋賀県出身。中学生の頃から自主映画を撮りはじめ、高校卒業後も独学で映画を学ぶ。2009年、映画製作団体を結成。『お米とおっぱい。』『恋する小説家』『テイク8』など10本以上を監督し、国内外の映画祭で20のグランプリを含む46冠を獲得。2018年、初の劇場用長編『カメラを止めるな!』が2館から350館へ拡大する異例の大ヒットを記録。三人共同監督作の『イソップの思うツボ』が2019年8月に公開、そして劇場用長編第二弾となる『スペシャルアクターズ』が同年10月に公開。2019年1月、映画の企画・制作を行う株式会社PANPOCOPINA(パンポコピーナ)を設立。2020年5月、コロナ禍を受け、監督・スタッフ・キャストが対面せず“完全リモート”で制作する作品『カメラを止めるな!リモート大作戦!』をYouTubeにて無料公開。2021年『100日間生きたワニ』『DIVOC-12』、2022年『ポプラン』が劇場公開。2023年縦型短編監督作「レンタル部下」がTikTokと第76回カンヌ国際映画祭による「TikTokShortFilm コンペティション」にてグランプリを受賞し話題に。
カルチャー部門
  • 1. マンガ760
  • 詭弁をまくしたてる佐島さん、それにツッコみまくるにわさん。おふたりの軽妙洒脱なやりとりはまるで長いアドリブ漫才を聴いているよう。なんの話してんの?とニヤけつつも知的好奇心を刺激される不思議。そのマンガを読んでみたくなる不思議。飛びかう知識や語彙から感じとれる確かな教養とカルチャーへの知見。それが悪ふざけに全振りされていく贅沢な時間。おまけにトークに淀みがなくてノンストレスな上に声もすこぶるいいときたもんだ。そりゃあ優勝です。マンガ760しか勝たんです。すっかりファンになっちゃいました。佐島さんがやられている別番組「あれ観た?」ももちろん面白い。
  • 2. 真夜中にゲイ♪
  • うち、アパートの壁が薄くてさ、隣のカップルの会話が聴こえてきたんだよ。で、密かに盗み聞きしてみたらさ、すっごくステキな二人でさ、すっごくステキな関係でさ、なんだか超幸せな気持ちになっちゃってさ…。僕にとってそんなラジオでした。気取らない、飾らない、そんな自然体のおふたりがほんとにステキ。映画好きなおふたりのレビュー回も面白い。このポッドキャストをやっている理由が「どちらかが死んだ時に悲しくならないように」ってのもステキがすぎるじゃありませんか。僕も妻とポッドキャストやろうかな。
  • 3. ワインの輪
  • 「うん…南国感がありつつ重厚感もある…最後には凝縮された果実の旨味…貫禄ありますね」
    え、ワインってそんな感じで感想言うんだ、え、おもしろ、え、かっこよ…と酔わされちゃいました。
    正直ワインってほとんど飲んだことないんですが、飲んでみようかな、飲んであんな感想言いたいな、なんて思っちゃいました。そしてこれまた、おふたりの関係性がいい。距離感がいい。しんちゃん、よしきくんと呼び合うふたり。幼馴染のふたりからしか得られない栄養分ってあるよね、と思わされました。
  • 総評:
  • 今回、審査員という大役を仰せつかり、あれやこれやといつも以上に考えながら聴いてみました。それで分かった。
    ことは、いまラジオやポッドキャストに自分が求めているものは、そこで語られる情報や内容以上に「話し手同士の関係性」なのでは?ということでした。
    ご存じ、現代は情報過多社会です。情報疲れしている人も多いでしょう。一方、SNSの勃興によりコミニケーションの多くがスマホ上で行われるようになりました。もしかしたら現代人は生の会話に飢えているのかもしれない。生の会話から得られる「解像度の高い人間同士の関係性」という栄養分が足りていないのかもしれない。まずそう思いました。 そして現代は切り取り社会でもあります。映像も会話も言葉も、そして人間同士の関係性も、文脈やディティールをざくざく切り落とされてネット上に投げこまれます。そんな中で、ラジオやポッドキャストは比較的、素材そのままをお届けしているものが多いように感じます。だからこそ解像度の高い人間同士の関係性という栄養分が得られる。そんな分かるような分からないようなことを感じたりしたのでした。
    現代社会の中にきらりと光る希望のコンテンツ、それがラジオやポッドキャストなのではないか、そんな大袈裟なことまで考えてしまいました。僕も始めてみようかな。
  • 奥森 皐月 
    タレント
    2004年生まれ、東京都出身。お笑い好きを活かしカルチャー誌のサイトにてコラム連載を執筆。テレ朝動画 logirl Blog にて「奥森皐月の喫茶礼賛」執筆。多彩な趣味の中でも特にお笑いを偏愛し、毎月150本のネタを鑑賞、毎週30時間程度のラジオ番組を愛聴している。
コメディお笑い部門
  • 1. ガングリオンの灰になるまで
  • 「悪口」という一見時代に背いているようなテーマですが、核心を突くような意見と物言いは共感できてとてもおもしろいです。自分の中で抱えていた小さな違和感や疑問を痛快なトークで斬ってもらえるようなエピソードが多く、爽快感すら得られました。
    特にクボさんの鋭すぎる言葉選びにはついヒヤヒヤしてしまいますが、炎上を目指しているとのことで気づけば「もっといけ」という気持ちになります。誰かを叩くのは良くないので、架空の人物を作り出して叩く「つくって叩こう」というコーナーは世の中の流れの逆のさらに逆で素晴らしいと思いました。これまでにあった毒舌キャラなどとは一線を画した最先端の悪口です。
  • 2. よるののうか ~農系バラエティ~
  • 農系Podcastなるものがあると噂には聞いていましたが「よるののうか」は深夜のお笑いラジオのような空気感でとにかく楽しい気持ちになりました。さまざまなアプローチで農業を扱った企画やトークをされていて、専門知識が一切なくてもおもしろかったです。おすすめエピソードになっていた「農業orアンパンマン【農業アイテムorキャラ名!?】」の回は、農業にまつわるものの名前はアンパンマンのキャラクターにいそうな名前であるという着眼点が最高でした。実際にクイズになると想像以上に難易度が高く、一緒に考えながら聴いてたくさん笑いました。
  • 3. ワクワクラジオ【10分ラジオ】
  • 10分という短い時間の中でもトークに展開があって次々聴きたくなる番組でした。パーソナリティのおふたりの聴きやすい声のトーンと軽快な関西弁の会話がクセになります。喫茶店で近くに座っていた席の2人組の話がやけに興味深いときに似ていて、自分もその楽しい空間に存在しているような心地よさを感じました。ジングルやBGMがオシャレで、毎回必ず10分というこだわりも素敵です。これぞまさにPodcastというような、肩の力が抜けていて朝から夜までどの時間帯でも楽しめる番組だと思います。
  • 総評:
  • ノミネートされた5作品を聴いて、Podcast特有のおもしろさというものがあると感じました。見た目や表情がわからないからこそ、言葉選びや声のトーンから話し手のパーソナリティを想像します。その中でも特に「その人が何をおもしろがっているか」というのは一つの大きなポイントだと思います。おもしろがっていることに共感できたり、自分では思いつかなかった発見があったり、方向はさまざまですがおもしろさを深く掘り下げている番組は聴いていて楽しいと感じました。今回初めて出会った番組も多かったのですが、どれも本当におもしろい番組だったのでこのPodcast Awardsを機にさらにリスナーが増えるといいなと思います。
  • 加藤シゲアキ 
    アーティスト/作家
    1987年生まれ、大阪府出身。 青山学院大学法学部卒業。「NEWS」のメンバーとして活躍しながら作家としても精力的な活動を続けており、評価を高めている。2012年1月『ピンクとグレー』で作家デビュー。2023年『なれのはて』で第170回直木三十五賞にノミネート。2021年『オルタネート』で第42回吉川英治文学新人賞、第8回高校生直木賞を受賞。他の著書に『閃光スクランブル』『Burn.-バーン-』『傘をもたない蟻たちは』『チュベローズで待ってるAGE22・AGE32』(全2冊)、エッセイ集などに『できることならスティードで』『1と0と加藤シゲアキ』がある。
カルチャー部門
  • 1. マンガ760
  • 佐島さんとにわさんのマンガトーク、シンプルにめっちゃ面白かったです。
    友達と話しているようなおかしさと心地よさで溢れていて、外で聴くとつい笑ってしまいそうになるので気をつけなくてはいけないくらいでした。
    また小説を書く身としては、キャラクターやストーリーについて深堀りするあたりは、首を縦に振りたくなることも多かったです。
    たとえば『#69 なんでそれ言っちゃうかなーってセリフの真意を考える【雑談回】』のマンガのセリフ、いわゆるフラグについて各々の解釈を言い合うふたり、作者の意図の隙を突くのではなく、キャラクターの人間性について言及していくのが素晴らしいと思いました。
    すっかりおふたりのファンです。
  • 2. あんまり役に立たない歴史
  • 『あんまり役に立たない歴史』というキャッチーな振り込みをうまく活かした軽快なトークで、大変楽しめました。ブリッジに「役に立たずポイント」をわかりやすく提示する構成で、リスナーに聴きやすくする工夫も好感をもてました。
    『#012 「小田氏治」』回の武将としてもってなさすぎる話は、コメディ映画さながらの冗談のようなエピソードが続き、笑わずにはいられないのに最後はちょっとぐっとくる結末で、それまで小田氏治を知らなかったにもかかわらず大好きになってしまいました。
    役に立たないもののなかにこそ生きるヒントが潜んでいる。
    そういう真理にに15分弱で触れられる、〝有益な〟ポッドキャストだと感じました。
    またこうした人物に、毎週焦点当て続けるじゅんぺいさんの歴史愛にも敬意を払いたいと思いました。
  • 3. ワインの輪
  • ワインについてのポッドキャストを聴くのは初めてだったので新鮮でした。
    ワイントークは、マニアックになりすぎず初心者にも分かりやすく、テンポもゆるくてオフ会のような空気感がいいです。リスナーとの交流が多いのも好感が持てました。
    ワインの情報もためになりますし、毎回ワインを一本を紹介してくれるので、次のワインを選ぶヒントにするのもあり。
    満月と新月の日たまにハーフムーンの配信というのもおしゃれですね。
    聴いているとワインが飲みたくなる、そしてワインのおともにぴったりな、気持ちのいいポッドキャストです。
  • 総評:
  • カルチャー部門は幅広く、コンセプトやテーマはもちろん、色合いや雰囲気もまちまちで、審査は大変難しかったです。なおかつどれも率直に面白かったため、3作すべて1位タイにしたい気持ちだったのですが、そうもいかないので、一点、声を出して笑ったかどうかで選びました。
    2位の『あんまり役に立たない歴史』と3位の『ワインの輪』は、歴史とワインというそれぞれの視点での情報が大変興味深く聴いていられたのですが、1位の『マンガ760』は、言葉選ばず言わせてもらうと「無駄話」みたいな要素も多く、しかしそれが笑ってしまうほど面白いという話術は純粋に評価したいと思いました。
    しかしこれを書きながらも、順位の入れ換えを考えてしまうくらい、本当にどれもよかったです。
    なにより私自身がこれらのポッドキャストを知れたことが収穫でした。
    貴重な機会をありがとうございました。
  • 髙橋泉 
    脚本家/映画監督
    1973年生まれ、埼玉県出身。 廣末哲万と結成した映像ユニット「群青いろ」によるデビュー作『ある朝スウプは』(03年)が国内外で高く評価される。主な脚本作品として『ソラニン』(10年/三木孝浩監督)、『100回泣くこと』(13年/廣木隆一監督)、『坂道のアポロン』(18年/三木孝浩監督)、『東京卍リベンジャーズ』(21年/英勉監督)、共同脚本作品として『凶悪』(13年/白石和彌監督)、『ミュージアム』(16年/大友啓史監督)、『朝が来る』(20年/河瀨直美監督)等がある。 また、監督作として「雨降って、ジ・エンド。」「彼女はなぜ、猿を逃したか?」が現在公開中。
報道・ドキュメンタリー部門
  • 1. 秘境に行きたい2人のポッドキャスト
  • 抜群に面白かったです。想像力をずっと刺激され続けて、「サバンナを10人くらいで練り歩く」というアフリカの野宿ツアーの話に、脳が追いつかない感じ。でも、リスナーを置いていくのではなく、こちらが追いつきたくて脳をフル回転したくなる感じ。自分では出来そうにないから、耳を傾けてしまうタイプの話は、それ自体に有り余るエネルギーを感じました。ep253『地球の凄さの伝え方をパワーアップしたい』も、配信側としての矜持はあるけど、ユルい感じが良いです。『オノマトペ』を『あいうえお作文』と勘違いしているところとか、最高でした。
  • 2. 肋骨パキ男の #パキラジ
  • 「自宅のウォークインクローゼットから配信中です」に、なんか食らってしまった。BLがテレビで普通に放送されている時代で、世の中はジェンダーレスになったと錯覚していました。まだまだ、個としての切実な問題は残っているのだろうと再認識。Vol.21『パキ男 教師辞めたってよ』を聞いて、教室の隅のロッカーから世界を覗いている一人ぼっちの子に、パキ男さんのハジケてる声が届いて欲しいなと思いました。
  • 3. 酪していきぬくラジオ
  • いきなり離婚報告のぐだぐだな配信で引きましたが、妻と子が去っていったであろう音声は、他人事なのにグッと来てしまった。そしてやっぱり積み上げは強い。500オーバーの酪農エピソードは、酪農業界の現状を伝える貴重な資料になるでしょうし、だからこそ、牛乳597杯目『農林水産副大臣と意見交換回 感想』に繋がったのでしょうし。かと思えば、牛乳483杯目『Z世代と真面目な話』の、やっぱりぐだぐだなこばちゃん、良いです。人に惹かれる番組でした。
  • 総評:
  • 僕は脚本を生業にする傍らで、自主映画というのを撮っていて、それはギャラが出るわけでもなく、誰かに頼まれたわけでもなく、作りたいから作る映画です。どの番組にも、そのスピリットを感じました。だからこそ、ぶっ刺してくる何かが強いものを選びました。
    『居酒屋の店長がお客さんに聞いたここだけの話』も、なんかチマチマとピスタチオの殻でも剥きながら喋ってる感じに身を預けられたし、『トトトトトーキョー 東京初心者にささげるラジオ』も、コンセプトがはっきりしていて、ワードセンスが良いんですよね。
    つまり最後は好みで選ぶしかなかった……。個が自分に合う個を探し求める時代に個を発揮する。それをマイクだけを武器にやってのける戦いを、見届けられて楽しかった! 何度も聞いた皆さんの声に、また会いに行きます!
  • 西川 栄二 
    放送作家
    大学卒業後、百貨店に勤務し、30歳目前で人力舎のお笑い養成学校「スクールJCA」に入学。その後、放送作家に転身し、「ゲルゲットショッキングセンター」「テリーとたい平のってけラジオ」「ロンドンブーツ1号2号のオールナイトニッポン」「長渕剛のオールナイトニッポン」「笑福亭鶴光の噂のゴールデンリクエスト」などなど、多くの番組の構成を担当。スクールJCAでは1000人以上の芸人の指導にあたり、2014年からは校長も務めました。2019年、「笑いの作り方」という本を出版。自由大学では笑いに関する教授もしています。
コメディお笑い部門
  • 1. ガングリオンの灰になるまで
  • 5組の番組を聞いて、最も笑いの総量が多くて、最もコンセプトがしっかりしていて、最も未来を感じたのが、このプログラムでした。とにかくガングリオンのクボさんのお笑いのセンス、トークのセンスがいい…そこが最大の魅力です。あえて難を付けるとすると、センスのいい人は、自分が面白いと思うものを、臭覚で見つけてしまいます。「なぜこれが面白いかと言うと」という理屈をすっ飛ばして、辿り着いてしまうわけです。しかしキャラが世間に認知されるまでは、聴いてくれる人に「なぜこれが面白いかと言うと」があったほうが、わかってもらいやすいし、クボさんという人の性格や美学も伝わりやすい。後付けでもいいから、そこを考えて伝える習慣をつければ、さらに笑いの総量が増えていくと感じました。将来が楽しみです。
  • 2. ワクワクラジオ
  • 2人ともトークが達者です。声もいいし、声のバランスもいい。話すスピード、感情の表現、相槌を打つタイミングなど、「そうとう練習したんだろうな」ということが伝わってきました。好感度が高いです。残念だったことは、メインのエピソードの中に2人の喜怒哀楽、2人ならではの思考回路みたいなものが入っていないことです。僕が聴いた回は、「手術室で倖田來未さんの音楽が流れてきた」というトークを展開していますが、これは観察力のなせる技で、発想力や構成力のアピールにはなっていません。「倖田來未さんの音楽が流れて、どう思ったのか」が入ることで、性格や美学が浮かび上がりますし、「お前は行くところ、行くところで、必ずピンチに合うなあ」とか「お前は、どんなシーンでも必ず最悪の事態を想像してしまう癖があるなあ」など、汎用性の高いキャラが生まれるかもしれません。そこを掘り下げれば、さらに強い話になると感じました。
  • 3. よるののうか
  • 当たり前ですが、5組の中で最もキャラが定まっていたのが、この番組でした。「農業に関する商品は、アンパンマンの登場キャラクターと名前が似ている」という発見に敬意を表して、3位に選びました。しかし、その名前を紹介していくだけでは、番組としては厳しいのも事実。個人的には、2人にとって「農業とは何なのか?」「農家の人というのは、どういう人なのか?」その笑える視点を見つける作業をした方がいいと思いました。農家の息子はキャラですが、「農家の息子は、実は親から凄い英才教育を受けている」とか「農家の息子は『跡を継いでもらわなければいけないから』と大学時代、親にムチャクチャ遊ばせてもらっている」などは、トークに役立つ「武器」となります。さらに2人の育った環境や考え方の違いなどがあれば、対立も生まれ、笑えるトークが量産できると思いますし、今回のテーマも活きてくると思います。期待しています。
  • 総評:
  • 様々な手法で、様々な才能が出てきていることを実感しました。ポッドキャストを主戦場に選んだ人は、裏方作業をこなす必要も含めて、気真面目な人が多いはず。でもマイクの前では、素の自分を見せる、感情を爆発させる…そんな自由度の高さみたいなものが大切なはずで、そこをどう自己演出するかが1つのポイントだなあとも思いました。最後に、お笑い芸人がお笑い学校に入ってから世に出るまで、ライブのネタ作りにひたすら追われ続けるように、ポッドキャストの世界も、作品作りに追われ続ける日々だろうと想像しています。でも「作品を作り続ける才能」と「最高傑作を作る才能」は違うはずで、最高傑作を作れば話題になり、きっと引っ張りあげてくれる人も現れますし、何より最高傑作の作り方を体(頭)で覚えます。時には過去に発表した作品を改めて聞き直して、最高傑作にするにはどうしたらいいか?そんな話し合いをすることも大切な時間だと思います。面倒な注文ばかりですが、頑張ってください。
  • 野村 高文 
    Podcast Studio Chronicle 代表
    音声プロデューサー・編集者。東京大学文学部卒。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、ニューズピックスを経て、2022年にChronicleを設立。制作した音声番組「a scope」「経営中毒」で、JAPAN PODCAST AWARD ベストナレッジ賞を2年連続受賞。その他の制作番組に「News Connect」「みんなのメンタールーム」など。TBS Podcast「東京ビジネスハブ」メインMC。著書に『視点という教養』(深井龍之介氏との共著)、編集した書籍に『ビジネスシーンを生き抜くための仏教思考』(松波龍源氏・著)がある。
    X(Twitter)アカウント https://twitter.com/nmrtkfm
    制作番組一覧 https://chronicle-inc.net/
報道・ドキュメンタリー部門
  • 1. トトトトトーキョー 東京初心者にささげるラジオ
  • 「東京の歴史を語る」というテーマは、比較的いろいろな切り口が考えられますが、しっかりと現地に足を運んで収録していること、また東京ぐらしが浅い上京者の目線という点が興味深かったです。この番組を聴くと、街歩きがひと味違ったものになりそうです。歌舞伎町・トー横など、最近のニュースでもよく取り上げられている場所を優先的に選定していることで「いま、聴くべき理由」も作れている印象を持ちました。音質や会話のテンポに気を遣っている点も好印象です。
  • 2. 肋骨パキ男の #パキラジ
  • 採点対象となったエピソード「ポジティブなカミングアウトだけじゃない」は、聞き手の世界を広げる回です。「セクシャルマイノリティのカミングアウト」というと、「最初は戸惑われた、しかし最後は受け入れてくれた」といったストーリーが思い浮かびます。しかし本配信を聴いていると、最後まで受け入れられないカミングアウトも存在することがわかります。このエピソードを聴いたことで、紋切り型のイメージを持っていた自分に対して、反省をしました。編集もしっかりと練られており、全体的にPodcastへの愛が伝わってきたのも良かったです。
  • 3. 居酒屋の店長がお客さんに聞いたここだけの話
  • 居酒屋の店長がお客さんに聞いたここだけの話
    話の面白さだけで考えると、本作品が一番でした。「居酒屋の店長がお客さんに聴いた話」というフォーマットは、今後あらゆるジャンルの業界裏話を吸収できる点で、優秀だと感じました。採点対象となったエピソードの「銀行の裏の裏の話」も、「へえ、あの動きにはあんな意味が」と、知らない情報を知れた快感がありました(ハローワークの話も良かったです)。一方で「フィクション」と明示しているため、「報道・ドキュメンタリー部門」の主旨からは少し外れるという点で、3位にさせていただきました。今後に期待が持てる作品です。
  • 総評:
  • 採点対象の配信回のみならず、他の配信回も複数聴いた上で、順位をつけさせていただきました。
    今回ノミネートされた5作品は、個人の私生活を話題にしたものが多かったです。
    私はかねがね、いいPodcastの条件として、「その人にしか言えないことがある」を挙げています。ライフヒストリーや体験談は、「その人にしか言えないこと」の代表例であり、その点では5作品いずれも、パーソナリティの方が語る意味があるものという印象を持ちました。
    一方で「報道・ドキュメンタリー部門」ですので、個人の私生活を主軸に起きつつも、客観的な描写を通じて、より多くの新しい事実や洞察が提示されている作品を、優先的に選定しました。具体的には、パーソナリティの背景をまったく知らないリスナーが聴いても、「へえ、そうなんだ!」「なるほどなあ」といった驚きがあるかどうかを評価基準としました。
    私自身は、一定の客観性と普遍性を持った作品が好きなのですが、Podcastは本来、自由なものです。自身を表現する手段や、日常を記録する手段として捉えても問題ありません。そのため、以下のように順位はつけましたが、それはあくまでも一つの軸に基づいたものに過ぎず、選外であっても、別の観点においては貴重な作品であることを付記しておきます。今後の配信を楽しみにしております。
  • 樋口 聖典 
    株式会社BOOK 代表取締役
    株式会社BOOKの代表取締役。元芸人、元音楽プロデューサー。地元福岡県田川市の廃校利活用施設「いいかねPalette(旧猪位金小学校)」を拠点として、クリエイターや起業家の支援に尽力。自ら出演する『歴史を面白く学ぶコテンラジオ』が、JAPAN PODCAST AWARDS 2019で大賞とSpotify賞のダブル受賞。2021年にはSpotifyの次世代ポッドキャストクリエイター育成プログラム「Sound Up」でファシリテーターに就任。2022年にはコテンラジオがACC TOKYO CREATIVITY AWARDSで総務大臣賞とACCグランプリを受賞。2023年にはRKB毎日放送のPodcast事業部アドバイザーに就任し、同局との合同プロジェクト「Podcast Lab. Fukuoka」を発足。
教養部門
  • 1. 子育てのラジオ「Teacher Teacher」
  • 親が本気で解決したい実際のお悩みについて、元小学校教員のはるかさんの現場経験をもとに話しているので、言葉に血が通っているし、絶対にお悩みを解決してやりたいという意志と熱量を感じます!
    即戦力になる具体的ノウハウから、抽象度が高く本質的な内容まで、情報の幅が広く、バランスも良い。
    また、一つのエピソードを作るために十分リサーチをした上で、より内容を正確にわかりやすく、かつリスナーの心に響くために内容や構成がしっかり練られているのがわかります。
    子育てがテーマですが、ビジネスや夫婦関係ほか大人の世界でも応用できる考え方やテクニックが散りばめられており、誰が聴いても役に立つと思います。
    聞き役のひとしさんの存在により、ただの講義ではなくトークバラエティーの要素が加わっている。また、パーソナリティー2人が互いにリスペクトしているのが伝わり、心地よく聴けました。
    とてもいい番組だと思いました!
  • 2. 楽しく広告人学を学ぶ『アドバタラヂオ』
  • テレビCMとTVer内CMの違い(#57)、カプセルトイ業界の解説(#179)などなど、広告業界の中の人ならではの切り口で語られるエピソードが面白い!
    オススメエピソードである児玉裕一さんと斎藤ネコさんゲスト回(#133)においては、ゲスト二人の心のスーツを脱がし、変な緊張感がなく自由な本音を引き出せているのは、トミナガさんの安定した進行はもちろん、ゲストの話を終始楽しそうに聴いているスナケンさんの存在が大きいのではと思いました。
    また、今年から番組コンセプトに「広告を楽しむ」の一言が追加されたのも大事なポイントの一つで、お二人の活動によって広告業界に音声メディアがどう組み込まれていくのかも期待しています。
    とてもいい番組だと思いました!
  • 3. デザぽ/デザインがしたいひとのためのポッドキャスト
  • デザインというテーマと、視覚情報が使えない音声メディアは相性が悪いのでは?と思って番組を聴いてみたところ、全くそんなことはなく、学びながら楽しく聴けました!
    パーソナリティーの榎本さんご自身がデザイナーとして現在進行系で活動していることもあり、「ちゃんと自分の声で喋っている」という印象で説得力があります。
    また、番組全体を通じて誰に何をどのように伝えたいかが明確で、誰もが簡単にデザインできるようになった時代だからこそ、見た目のカッコよさや美しさにとどまらず、ストーリー展開、ユーザーとのコミュニケーション、アーティストとデザイナーの違いからクライアントワークのノウハウまで、一段階深い階層でデザインを学べるといった意味で、有意義だと感じました。
    とてもいい番組だと思いました!
  • 総評:
  • 情報過多な現代において、受け取り手は情報ジャンキー化し、インプットの瞬間はインスタントな快感を得れるものの、情報が知識として定着しない…といったことは、多くの人が経験しているはずです。
    ここで重要になってくるのが、誰が、どんな原体験を元に、誰に何を強烈に伝えたくて喋っているかであり、特に教養部門においてはその傾向が強い気がします。
    そういった意味で、今回ノミネートされた5番組はどれも魅力的でしたし、情報としての興味深さという点では甲乙つけ難かったです。
    その中でも、特にパーソナリティーやゲストの熱量や人間臭さが声に乗っていると感じた番組を選ばせていただきました。
    審査締切日ギリギリまでめちゃくちゃ悩みました。
    あと、各分野で活躍されている方々の声をこんなに長時間聴けるのが本当に凄いことだと改めて痛感しました。
    この場をお借りして、全ての配信者の皆さん、マジでありがとうございます!!
  • 秀島 史香 
    DJ/ナレーター
    1975年、神奈川県茅ヶ崎市出身。慶應義塾大学在学中にデビュー。ラジオDJ、映画、TV、CMのナレーション、朗読、プラネタリウムや美術館の音声ガイド、JAL機内放送など、声の表現があるところで活動中。現在FMヨコハマ「SHONAN by the Sea」、NHKラジオ「 ニュースで学ぶ「現代英語」」、テレビ東京「二軒目どうする?〜ツマミのハナシ〜」などに出演中。ニッポン放送『文豪ROCK!~眠らせない読み聴かせ宮沢賢治編』で令和元年度文化庁芸術祭「放送個人賞」受賞。著書に『いい空気を一瞬でつくる誰とでも会話がはずむ42の法則』『なぜか聴きたくなる人の話し方』(共に朝日新聞出版)。
大賞
  • 1. あんまり役に立たない日本史
  • こんな授業を受けたかった!オープニングで「多分テストには出ない、知っていても誰も得しない」と言っていますが、こんな楽しい番組が入り口になれば、世の中に歴史好きが一気に増えること間違いありません。
    教科書的には、歴史上の人物は「その人の成し遂げた功績」を学んでいくものですが、ここでスポットライトが当たるのは、偉業よりも「やらかし」。人間臭さや憎めない恥ずかしい一面など、「そんな話を聞けば、好きになるしかないじゃん!」というギャップ萌えなエピソードばかり。

    長さも15分前後と聞きやすく、途中途中で必ず笑えて、「知らなかった」と、知的好奇心も満たされる。初めてポッドキャストを聴く人にも「じゃ、まずこれ聞いてみて」と安心してオススメできる、非常にバランスの取れた作品だと思います。

    業界的な流れの話をすると、ポッドキャスターの制作活動を支援するための仕組み、例えば、月額制ファンクラブも続々と生まれているのは、全体が成長していくためのいい動き。この番組では限定特別編の配信などもある「藩クラブ」があり、会員のことを「藩士」と呼ぶ。その遊び心も大人の部活のようで楽しい。会費は、しろっぷじゅんぺい氏が歴史を学ぶための旅の資金に充てられるとか。応援するクリエイターの活動を日頃からファンが支え、作品の内容もますます充実していくというのは幸せな関係性であり、モデルになる仕組みだと思います。ますますこの動きが盛んになり、ポッドキャスト界から国民的スターが生まれたら…と、妄想は止みません。
  • 2. 子育てのラジオ
  • あらゆる子育て情報があふれるこの時代、親と子を取り巻く環境も変わっていますが、正直ついていくのが大変!そんな時、助け舟となってくれるのがこちら。専門性と、いい意味で淡々としながらも親しみやすさのバランスが絶妙。聴いているこちらの感情が上がったり下がったりすることなく、「なるほど」と素直に吸収できます。

    世界中の教育現場をまわりながら、SNSで寄せられる子育ての悩みに応えていく小学校の先生、はるか氏。子どもと親に丁寧に向き合い、知識や理論を語るのではなく、そのアドバイスはとことん実践的。「じゃあ、今日はこれをやってみますか」と、問題を捉え直すアプローチ、こんな言葉をかけてみたら?という提案は、どれも分かりやすく納得した上で試してみたくなるものばかり。「遅刻癖がなおらない」「ストレスでお腹が痛くなる」「お片付けができません」というお悩みなど、その対応法は大人でもすぐに使えるし、役に立ちます。

    ちなみに「聞き手」であるラジオ番組プロデューサーのひとし氏のおだやかに引き出すスキルも、この番組の大きな鍵。大学1年からの友人という2人。互いの信頼関係もあってこそ、「それはどういうこと?」と率直に疑問を投げかけたり、分からないところはとことん掘り下げたり。時おり出てくる博多弁の掛け合いにもあたたかいお人柄を感じます。

    今後、多くのケースや経験値などが積み重なっていくことで、番組もますます醸成していくことと思います。悩める子どもと親御さんは聞くことでまた違った見方ができて、気持ちが楽になるかも。特に、実例を挙げて丁寧に根本からアプローチしていく不登校特集回は、必聴。
  • 3. 秘境に行きたい2人のポッドキャスト
  • 内容の濃さに圧倒される、聴く「世界旅行」。サファリ、洞窟、遺跡、気球、犬ぞり。冒険心あふれる旅をしている、やなぎー氏ときじー氏。この2人が「いつか行ってみたかった!」とロマンの赴くまま、アフリカの国々、南米アンデス、極寒カナダなど、数十日間の旅をしまくるという旅ライフを実践。

    しかも旅先では、毎日しっかり収録。絶景、動物、人、文化、食など、心躍るワクワクはもちろん、しんどかったこと、怖かったこと、残念だったことなど、心が動いたあらゆる感情を新鮮なうちに声で記録するという手法は、ありそうでなかった斬新さ。

    特筆すべきは、大好きな冒険を続けるために彼らが模索している新たなワークスタイル。IT系勤務の2人は、「どこにいても仕事の質は落とさず、自由に働いていたい」と、デジタルを駆使して、行く先々で究極のリモートワークに挑戦中。「ロッジでリモート会議してたら、イボイノシシの親子が通り過ぎた」「オンラインでプレゼンだから久々にヒゲ剃ったわ」など、地球のどこにいても、日本にいる時と同じペースで仕事をするタフさ。働き方について「本気を出せば実現できることは色々ある」という世界も見せてくれます。

    「違う景色を見に行きたい。けど、仕事で…」と、いつもの言い訳を口にする前に、ちょっと聞いてみてほしい。秘境とまではいかなくても、ちょっとした移動さえも「面白がって楽しんでしまおう!」というマインドが身についてくるかも。今こそ聴きたい前向きな作品。
パーソナリティー部門
  • 1. 「あんまり役に立たない日本史」しろっぷじゅんぺい氏
  • なんて巧みな話芸!その手にかかれば、1000年前の偉い人も、近代の文豪も、興味ゼロ状態からなんだか愛おしい推しキャラへと急浮上。歴史上人物の愛されポイントを見抜き、何倍にも引き出す手腕は敏腕プロデューサーでもあり、自身が巧みなプレーヤーでもある。

    取り上げる偉人のセレクションも絶妙。清少納言のことを「日本最古のあるあるネタ芸人」として、「枕草子」から共感してしまうトホホな出来事を借りて演出付きで披露したり、「今の時代にそれは不適切…?」とこちらがビビってしまう「見た目いじりネタ」を引っ張ってきたり。太宰治の「走れメロス」の元ネタになったダメ人間エピソードまで、「その部分のそこを使う?」というエピソードの切り取り技術も秀逸。

    そして語りのうまさでグイグイとおもしろく聞かせてくれるスキル。これは活字で読むよりも、やはりこの声、語りでこそ。話の途中で挟まれる再現VTRのようなセリフ劇も、ショートコントのように笑ってしまう。

    加えて「姫路城」「日本刀」「忍者」などの回も、ハズレなく鋭いユーモアセンスで面白く仕上げる腕前はさすがです。ここまで日本史を面白く語れるならば、あらゆる世代はもちろん、インバウンドの皆さんにも喜ばれるのでは?この内容を英訳して、堂々としたジャパニーズイングリッシュのポッドキャストで世界へ発信すれば、日本文化好きの海外リスナーの間でも熱狂的なファンを生むかも。そもそもポッドキャストで発信すること自体、「世界同時リリース状態」ですもんね。日本から、ポッドキャスト経由でスター誕生?今後が楽しみです。
  • 2.『肋骨パキ男の #パキラジ』肋骨パキ男氏
  • セクシャリティーは、その人そのもの。「多様性の推進、理解の促進」なんてむずかしい言葉よりも、LGBTQ+の人はこんな風に思っている、考えているという「生の声」を表現できる、ふれることができる「場所」としてのポッドキャストの役割は大きいと思います。

    今回素晴らしかったのは、パキ男氏の呼びかけで、11のポッドキャスト番組が集まった合同コラボ企画「G Up To You」。ひとつのテーマ(カミングアウト)についてそれぞれがバトンを渡していくように語っていくことで、出演者同士はもちろん、リスナーにとっても、「じゃ、これも聴いてみようか」と、他の番組へ気軽に入っていけるつながりを作った功績は素晴らしいと思います。連携することにより、リスナー同士がそれぞれの番組の存在を知ることになりますし、応援する人も増えていいことづくめ。

    「セクシャルマイノリティの人々が自由に表現できる環境を作り出し、ゲイポ(ゲイポッドキャスト)やリスナーに勇気を与えたい」というパキ男氏。回によっては、徹底的にふざけ倒す爆笑キャラに豹変するのも愛される理由かも(何より聴いていておもしろい)。その明るいお人柄と、まっすぐな信念と、行動力で、これからも横に!外に!と輪を広げていってくださいね。ポッドキャストという「場所」をみんながますます使って、あらゆる人たちが、無理なく自分らしくいられる社会になっていきますように。そんな願いも込めて。
  • 3. 「ワクワクラジオ」 ミタムラ氏とモリグチ氏
  • イメージは、街の喫茶店。いつものようにコーヒーを飲んでいたら、どこからか関西弁の楽しそうな会話が聞こえてきた。話題は、お互いの暮らしの中で起きたあれこれ。相手をグイグイ笑わしてやろうという感じでもなく、お互い「それな」「分かるわー」と、を笑顔でうなずきながら聞き(声の様子から想像しています)、おだやかにツッコミを入れる様子から、聞いているこちらもほほえましくなってきます。

    きっと善良な社会人なんだろうな、というミタムラ氏とモリグチ氏の、「こんなこと、あるよね」「それなー」という話題と、たまにキレの良いツッコミがとにかく楽しそうで。気持ちはいつまでも中学生のまま(褒めてます)おっちゃん未満のふたりの仲良さげな雰囲気は、いつまでも浸かっていたい安らぎの温度感。「今日はもう何も考えたくない!お疲れ、自分!」という1日の終わり、聞きながら一緒にクスクス笑えば、心がちょっと軽くなります。
メディアクリエイティブ部門
  • 1. 虚史平成
  • かなりクセ強めの虚言ファンタジー!「嘘漫談家」という肩書きにも聴く前から怪しさ全開だけど、一度聞くと、中毒性のあるエンターテインメント。「モーニング娘。デビュー前の幻のメンバーは俺だった」「元号が変わる時のあの「平成」色紙は竹下首相に頼まれて俺が掲げる予定だった」などなど、歴史が動いた時のその現場に「オレがいた」視点で語り切ってしまう裏街ぴんく氏の話術に圧倒されます。

    多感な年頃を平成という時代で生きた人間としては、「ユニクロのフリース」「t.A.T.u.のMステドタキャン」「レッサーパンダ風太くん」「ベッカムヘアー」など、その事象チョイスの絶妙さにも唸ってしまう。

    「さすがにぶっ飛びすぎでしょう!」というエピソードも、聞いていると「他の点は史実として合ってるし…」「もしかして最後に伏線として回収される?」と、謎解きに参加しているような気持ちになってくるから不思議。

    聴後感は、妙にモヤモヤした気持ちにもなるけど、歴史ってつまるところ、私たちが「知っているつもり」になっているだけのもの…?と、足元がぐらりと揺らぎ、これまでの記憶があやしく上書きされそうな面白さがあります。
  • 2. 上出遼平 NY御馳走帖
  • 「これはラジオでは、できないかも…」と初めて聞いた時、一本取られた気持ちになりました。慣れない土地を訪れた時、地元の人々の暮らしぶりを感じられるのが、賑わっている食堂。客や店員が醸し出す店の雰囲気は、ピンポイントで切り出せるものではなく、長尺で録ることでじわじわ滲み出てくるもの。

    上出氏が、ただ行きたいところに行って、食べたいご飯を食べてくるという、戦士の休日感。淡々としたおだやかな一人語りで、お店やごはんの描写。ASMR的な要素もありながら、誰かとやりとりがあったり、何も起きないなら何も起きないで、それもそれでホッとする。

    何かが聞こえてくるかもしれないし、聞こえてこないかもしれない、その未知の「余白」の中にこそ、人の声や、食器の音、車の音や謎の音から想像する楽しみが生まれてきます。
  • 3. 見えないわたしの、聞けば見えてくるラジオ
  • カフェで友人と雑談をしているような世間話のようなおしゃべり…ですが、変わっているのは、MCが「ある朝、目覚めたら突然目が見えなくなっていた」ブラインド・コミュニケーター石井健介氏だから。ゲストの素朴な疑問も交え、時にジョークでゲラゲラ笑いながら、「僕にとって世界はこう見えている」という洞察力に聞きながら何度もハッとしました。

    親しみのある話題、例えば、異性の好みについてなども、「見えないこと」が日々の自分の暮らしにおいて、どのようなことを起こしていくのか。軽やかに展開するおしゃべりに引き込まれてしまう。「へえ!ほうほう!」とながら聴きをしていると、物事の本質を捉え直す問いが急に出てきて、ハタと考えたり。

    様々な特性を持つ人たちの本音が楽しく聞ける番組というのは貴重。それをメディアがしっかりとしたサポート体制で作り続ける意義は大きい。
  • 総評:
  • radikoにもポッドキャストが実装されました。ますます放送局が本腰を入れてポッドキャストを展開してくるであろう2024年。しかも、これまでradikoリスナーをヤキモキさせてきた聴取・配信・エリア制限なし(ポッドキャストの特性からすると当然ですね!)、もちろん過去のアーカイブも聴き放題とくれば、ここから音声メディア業界の大きな地殻変動が起きると思います。radikoが登場した時もゲームチェンジの予感がしましたが、ここで新たな扉が開きました。

    趣味嗜好もますます多様化していく中、ひとつのトピックやジャンルを深く掘り下げていけるポッドキャストは、「マス」ではなく、個人の「好き」に応えてくれるメディア。一人でも多くのリスナーを獲得するための幅広いスタンスではなく、好きな人にどれだけ深く支持されるか。

    元来「一対一」の親密な感覚を強みとして持つ「音声」だからこそ、そしてそれを扱うプロ集団である放送局だからこそ、従来の地上波ラジオとは違う価値観で、1歩も2歩も先を行って、世の中にある様々な声を聴かせてほしい。メディアだからこそ、ポッドキャストでできることは何だろう…私自身も考えています。
  • Photo: Shunichi Oda
  • 古田 大輔 
    ジャーナリスト/メディアコラボ代表
    福岡生まれ、早稲田大卒。朝日新聞記者、BuzzFeed Japan創刊編集長を経て独立し、ジャーナリストとして活動するとともに報道のDXをサポート。2020-2022年にGoogle News Labティーチングフェローとして延べ2万人超の記者や学生らにデジタル報道セミナーを実施。2022年9月に日本ファクトチェックセンター編集長に就任。その他の主な役職として、デジタル・ジャーナリスト育成機構事務局長など。早稲田大、近畿大で非常勤講師。ニューヨーク市立大ジャーナリズムスクール News Innovation and Leadership 2021修了。
大賞
  • 1. 子育てのラジオ「Teacher Teacher」
    2. 肋骨パキ男の#パキラジ
    3. 秘境に行きたい2人のポッドキャスト
  • 総評:
  • 力作揃いで例年以上に悩みながら選びました。逆に言うと、圧倒的で印象を全て持っていくようなものがなかったということかもしれません。メディアクリエイティブ部門の講評でも触れましたが、Podcast番組の質と量がここまで向上してきた中で突き抜けたものを作るのは難しくなっています。

    大賞となった「子育てのラジオ」は僕も1位に推しました。他の方も触れているように、知識、熱量、そして2人のトークの心地よさが素晴らしかったです。子育ては人の悩みのトップ級のものですが、こういったそれぞれのリスナーが抱えている悩みに寄り添える番組がこれからも生まれ続けて欲しいなと願うし、実現すると思っています。それがPodcastのいいところ。
パーソナリティ賞
  • 1. 肋骨パキ男の#パキラジ
    2. 子育てのラジオ「Teacher Teacher」
    3. 秘境に行きたい2人のポッドキャスト
  • 総評:
  • その人の魅力がそのまま番組の魅力につながっている「パーソナリティ賞」には、肋骨パキ男さんを推しました。パキ男さんなしに#パキラジは成立しないですもんね。最高。

    自分のセクシュアリティを語るPodcastは他にもあるけれど、簡単なことじゃないですよね。時に楽しく、時に真剣に。パキ男さんの声を聞いていると、この人は本当に伝えたいんだな、という思いまで感じ取れます。
メディアクリエイティブ部門
  • 1. 見えないわたしの、聞けば見えてくるラジオ
  • ある日、目覚めたら視力を失っていた。石井健介さんの苦労は想像を超えますが、日々の暮らしについてゲストとのトークを通じて聞いていると、確かに見えてくるものがあります。ゲストが「それ、確かに聞いてみたかった」と思うことを石井さんに聞いてくれます。テレビだったら、石井さんの目が見えていないということをずっと感じながら番組を見ることになりますが、ラジオで聞いていると見えていないということは要素の一つにすぎなくて、自然にいろんな情報が耳に入ってきます。それが「見えてくる」ということなのかも。
  • 2. 上出遼平 NY御馳走帖
  • 「ハイパー ハードボイルド グルメリポート no vision」で2021年度の大賞を獲った上出遼平さんが移住先のニューヨークからお届け。「食事を収録するだけ」というだけあって、本当に何の事件も起こりませんが、どことなく街と食事の空気感が伝わって心地よいです。出てくるお店は凄く有名だったり、個性的だったりするわけでもないですが、上出さんの朴訥としたややぶっきらぼうな感じの喋りで「美味しい」と紹介されると食べに行きたくなります。
  • 3. オールナイトニッポンPODCAST アンガールズのジャンピン
  • 同郷で学生時代からの付き合いのアンガールズの2人がわちゃわちゃ話していると、それだけで笑ってしまいます。無理に面白くしようとしている感じではないけれど、やや必死の自然体。それがPodcastに凄くあっています。作り込まれていない、もしくは、作り込まれていることを感じさせない二人の空気感自体が魅力です。関係性が微妙な二人だと、この感じって生まれないんじゃないかな。
  • 総評:
  • メディアクリエイティブ部門の魅力は、プロならではの作り込みや完成度の高さですが、今年選んだ3作品は、作品としてシンプルな中でパーソナリティや企画そのものの良さが際立っていました。草の根で広がったPodcastに数年前からプロの参入が増え、成熟する。そんな段階に来ているんだなと感じました。

    一方で音声メディアがマスにまで広がったかというと、米国などと比べるとまだまだ伸びしろがあります。「オードリーANN東京ドーム」のようなブレークスルーが、プロの仕掛けでメディアクリエイティブ部門からこれからも続々と出てくると期待をしています。
  • 八木 太亮 
    株式会社オトナル 代表取締役
    静岡県生まれ。2013年に株式会社オトナルを創業。ウェブメディア事業の売却を経て、音声コンテンツと音声広告事業に特化。過去1700件以上のデジタル音声広告提案を行う、音声広告の国内リーディングカンパニーとして事業を展開中。同社では『ポッドキャストランキング』『ポッドキャストペディア』などのウェブサービスを運営するほか、調査レポート『PODCAST REPORT IN JAPAN ポッドキャスト国内利用実態調査』を毎年、朝日新聞社と共同で公開中。著書に『いちばんやさしい音声配信ビジネスの教本 人気講師が教える新しいメディアの基礎』(インプレス)
教養部門
  • 1. 子育てのラジオ「Teacher Teacher」
  • 子育てのお悩みがテーマの番組ですが、実は、それ以外のすべての人にとっての多くのヒントが詰まっている番組だと感じました。
    たとえば、人とのコミュニケーションやビジネスにおけるマネジメントなどなど。「遅刻」のお悩みの回などは、むしろ我々のような社会人にもとっても参考になるエピソードでは?と。複数のエピソードで、私自身に当てはめても参考になるな...と感じた点が多かったです。
    子育て世代であればなおさらで、子供に関する共通の悩みに対し、心理学や教育現場の経験などを基に的確な回答がなされていて、聴いた後に子育てに対してポジティブな気持ちになれる番組です。
    この番組は、会話を耳で聴く「ポッドキャスト」という形態を取っていることで、「子育て教育のプロへのお悩み相談」を傍らで聴いているような、疑似体験が味わえます。動画コンテンツや活字コンテンツよりも、”音声だからこそ良い”と感じられる番組だと思いました。
  • 2. 楽しく広告人学を学ぶ『アドバタラヂオ』
  • 広告の世界はクリエイティブで華々しく見えます。一方、広告の裏側というものは、能力バトル漫画における能力者にしか見えない特殊能力のようなもので、専門性が非常に高く複雑でもあるため、一般の消費者はその広告の裏側(しくみや価格、クリエイティブが生まれるまでの背景)にはなかなか触れることができません。
    また、本来、広告代理店やクリエイターといった広告を作るプロの仕事は、一般の消費者からすると”裏方の仕事”であり、触れにくいものです。ゲスト会ではそういった人たちの仕事について、彼ら自身の声で聴けるという新鮮な体験を味わうことができます。
    広告枠の価格感や、意外な広告メニューなどについても触れることができるので、以外な活用方法が見つかる...かも。私は今回聴いていて、「あ、あの広告枠、今度なにかの企画で使おう」という体験を味わいました笑。
  • 3. 10分⁉天体ばなし~宙が好きすぎて~
  • 宇宙や天体をテーマにしたながらも普通の人でも楽しめるロマンのある教養に触れられる「聴くプラネタリウム」といった趣きの番組。
    学校の理科で習うようなサイエンス的な天体の話が多いのかと思いきや、星にまつわる神話や民俗学のようなロマンティックなエピソードも織り交ぜられていて、ライトに楽しめる点がGOOD。ライトな雰囲気な雑学回の合間に、天文現象などについてもきちんと盛り込まれているので、小学生の子供などでも楽しく聴けそうです。お子さんのいる家庭で自宅で毎日かけていたら、宇宙が好きになりそうですね。また、1エピソード10分というコンパクトな作りでゆったりとした雰囲気なので、就寝前に聴くとぐっすり眠れそうです笑。
  • 総評:
  • なにかの特定テーマの番組のように見えて、対象者以外が聴いても、実はとても普遍的な気づきだったり、日常をポジティブに変えていけるような教養を得られる番組が多く、「ああ、これはあの人にも聴かせたいな」と思える番組ばかりでした。
    ゲスト回やトークを通じて情報をインプットできる「ポッドキャスト」は、聴きながら目をつぶれば、リスナーがその話者たちと同じ場所にいて話を聴いているような体験(=疑似体験)を味わうことができます。これは、「動画」を見たり、本や画面などで「活字」を読むのとは全く別の学びの体験になります。
    人の経験から語られるトークを聴けるポッドキャストは、やや大げさですが「口頭伝承」みたいなものです。今回改めて、”人の生の声や、感情のこもった臨場感を通じて新しい知識を得る”、という体験を味わえるのが、教養系ポッドキャストの醍醐味だと感じました。